釘原直樹「人はなぜ集団になると怠けるのか」
人はなぜ集団になると怠けるのか
釘原直樹

学級経営と集団の特性
35人、あるいは40人の学級で「すべての子どもたち」が高いパフォーマンスを発揮できる環境を作ることは、本当に可能なのでしょうか?
こうした目標は頻繁に掲げられますが、実現は容易ではありません。
また、職員室という集団の中で、個々の能力が最大限に発揮され、お互いに補完し合うことで全体の価値が高まるような理想的な状態が本当に実現されているのでしょうか?こちらも改めて考えてみるべきかもしれません。
本書では、さまざまな社会実験やビートルズの事例を通して、集団の持つ価値と課題について深く考察しています。教師が日々直面する「集団を相手に、『中の上』のレベルで授業を進める」という現実的な課題に対し、明確な言葉で問題提起をしてくれる貴重な著作です。
例えば、日本の学校では、飴の包み紙が落ちているだけで学年全体を集めて叱ることがあります。このような指導方法は、一般社会の規範とはかけ離れていると指摘されることもありますが、社会学の「破れ窓理論(腐ったリンゴ効果)」によって一定の根拠が示されています。
実際の実験では、スーパーにカートが放置されていると、ポイ捨ての割合が30%→58%に上昇することが確認されています。また、実験的に5ユーロを盗める状況を作った場合、周囲に落書きがあるだけで盗難の確率が14%上昇することが分かっています。こうしたことから、学校社会における「小さな課題」に対する早期発見・早期対応は非常に重要であり、集団の規律が緩むのを防ぐために必要な取り組みであるとも言えます。
この知見は他の実験でも裏付けられており、中学3年生を対象にした研究でも、集団形成の初期段階における高い規範の確立が、その後の生産性に大きな影響を与えることが示されています。クラス運営においても、早い段階で良好な生活規範を形成することができれば、教師の直接的な監督がなくなってもその水準が維持されるという研究があるのです。
本書ではこうした教室の中の問題に加え、カンニングやスポーツにおける社会的手抜きについても詳しく論じられています。音楽の授業の合唱や合奏における手抜きについての具体的な言及はありませんが、これらの知見を応用することで、音楽教師も応用が可能かもしれないと感じました。合奏中に眠くなってしまうそこのあなたに送りたい一冊です。
「破れ窓理論」
敗れ窓やゴミや落書きは都市が荒廃している象徴となり、さらなる荒廃や犯罪を生み出す。